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チャイコフスキー 交響曲第6番 悲愴 [音楽]

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(夕靄の立ち込める冬の宮島)


Tchaikovsky Symphony No. 6 "Pathétique"
Franz Welser-Möst
The Cleveland Orchestra
2007, Severance Hall (Season opening concert)

ネットラジオ、ストリーミングサービス、CDを中心に、今年もたくさんの音楽を聴いた。印象に残った演奏は数多くあるのだけれど、その中で一つ選ぶとするならば、迷うことなくヴェルザー=メストの悲愴をあげる。1月のネットラジオのスタートは、マイアミ定期の「冬の日の幻想」だった。今年はチャイコフスキーについて、興味を深めた一年なのかもしれない。ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲を聴き直していくにつれて、その音楽性に魅せられたと言っていいだろう。チャイコフスキーを題材にしたケン・ラッセル監督の『恋人たちの曲 悲愴』も忘れがたい作品だ。

ニューヨークの批評家が"Unsentimental elegance"と評するように、ヴェルザー=メストの悲愴には、ひんやりとした空気感が漂う。暗澹としたファゴットの旋律と、不穏な低弦の調べで曲は始まり、ヴァイオリンの鋭い響きが耳をつんざく。情け容赦なく降りかかる試練を一身に受け止める以外、生きてゆく方法はないのだと言わんばかりの曲想だ。
地下室の暗闇にそっと光が降り注ぐような第2主題。ヴァイオリンが優美なメロディを奏でると、フルートの旋律が後続する。スミスさんのフルートは、マッチを擦って浮かび上がる束の間の幻想をイメージさせる儚い音色だ。ヴェルザー=メストの悲愴を聴いていると、死ぬことでしか幸福を得られなかったマッチ売りの少女の姿が脳裏に浮かぶ。心の奥深くにそっと語りかけるような音楽の進行が印象的だ。悲愴の録音は数多く聴いたけれど、アンデルセンを彷彿とさせたのは彼が初めてだった。淡い光が消えゆくと、研ぎ澄まされた剣先のように鋭い弦が再び登場する。セヴェランスホールの音響もあいまって、かなり激しく感じられた。狂ったように突進していく様子は、去年のマーラーの6番に通じるものがあった。

第2楽章はヴェルザー=メストが得意とするワルツだ。4分の5拍子という一風変わったもので、チャイコフスキーの創意工夫が見て取れる面白い楽章。不安定さが同居する旋律を、メランコリックに聴かせてくれる。
にぎやかで慌ただしい第3楽章。目が回りそうになる曲想は、躁状態の人間の内面を映し出すかのようで不気味だ。一糸乱れぬアンサンブルで、澄み切った響きはそのままに駆け抜けてゆく。

ヴァイオリンの慟哭 にも似た物悲しい旋律で始まる第4楽章。冴え冴えとした弦にブラスが加わり、音楽は静かに高揚してゆく。ヴェルザー=メストは大きくテンポを変えたり、タメを作るわけではないのだけれど、まるでワーグナーかシュトラウスのオペラのように、ドラマチックに音楽を作り上げる。山場への持って行き方が絶妙なのだ。音楽の高揚が最高潮に達する場面では、目の前に現れた"おばあちゃん"の姿が消えないように、ありったけのマッチを擦るシーンを連想せずにはいられなかった。むせび泣くような耽美的な弦の響きには、抗いがたい魅力がある。泡のように消えゆくラストには魂が揺さぶられる思いがした。


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コメント 2

T.D

ヴェルザー=メストの悲愴は、まさに研ぎ澄まされた音楽のように感じています。彼の真骨頂である、洗練された美しさ、マイナスの解釈がこれほどまでに活きる曲はないのかもしれませんね。マッチ売りの少女を想起されるのも、何となくわかるような気がいたします。

マーラーの6番との似ている点は、常軌を逸するような感情の揺らぎが表現されているところでしょうか。私はこの演奏を聴くたびに、サイコパス的な狂気の一面を感じることさえあるくらいです。悲しみと喜びの両極端をめまぐるしいスピードで行ったり来たり。一度聞くとのめり込んでしまいますね。
by T.D (2017-01-02 10:59) 

menagerie_26

T.Dさん

ストイックなほど甘さを排したヴェルザー=メストの悲愴は本当に名演だと思います。一気に駆け抜けるような勢いにいつも圧倒されます。何かに囚われたように突進していく様子が、マーラーの6番にも共通していました。あふれんばかりの感情の発露を感じさせます。彼の悲愴やマーラーの6番を聞いていると、周りが見えなくなるくらいのめり込んでしまうので、脳内で様々なイメージが浮かんでくるのです。マッチ売りの少女もその一例でした笑。
10年ぶりに、来シーズンあたりで取り上げてほしいですね。


by menagerie_26 (2017-01-02 23:52) 

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